昭和お笑い暗黒史────戦艦「大阪」解体大作戦
結:「帰るべき場所」
三度、黒門市場。
閉店を迎えた「魚虎」では、武内虎子(46)の札を数える「ちゅうちゅうタコかいな」の声が続いている。
ひとり店の外でバージニア・スリムをくゆらせながら、武内寅美(23)は、別れた夫、和己の好きだった「とんぼ」を鼻唄で歌っていた。
(ウチ………、まだアイツの事、好きなんやろか………?)
今日は、散々な一日だった。
釣銭は間違える、鱧には骨が残ってたとクレームがつく、ドラネコに魚は盗まれる………、そして、おまけに、立て続けにワケの分からんモノを、二度も見てしまったのだ。
(………電話、してみよかな………?)
そんな事もあって、弱気になっていた寅美だったが………、
「…………お母ちゃん。」
「………何やね。」
「あんな………怒らんと聞いてや?」
「あぁ、何やねん。」
「大阪の街ン中な………、自由の女神、歩いてたら、どうする……?」
「んなもん、映画決まっとるがな。私やったら、カメラ探して映るわ。」
「そうやね。映画よな。………ごめんな、今日はアホな事ばっかり言うて。」
「気にせんかてええ。アンタも、離婚してから、色々あって疲れとんのやろ。」
「………お母ちゃん…………。」
離婚後に初めて聞いた、母の優しさに満ちた一言だった。
(ウチ……この店で、お母ちゃんと、もうちょっと頑張ってみよう………!!)
寅美は、いつの間にか開きかけていた携帯を、また閉じたのだった……。
大阪は、いつまでも平和であった…………。
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