昭和お笑い暗黒史────戦艦「大阪」解体大作戦
………しかし。
このまま何もせんと帰ったりすれば、いくら無茶な要求であるとはいえ、しこたま怒られるのは目に見えている。
たとえ雀の涙ほどしか給料を貰っていないとはいえ、これから先も芸人を続けていくならば、睨まれるのはマズい。
「……………はぁ。しゃあないな………。」
そう考え直した俺は、とりあえず、何か仕事をしたという痕跡だけでも残そうと、その錆の塊を調べ始めた。
近くに寄ってみると、その鋭角的なフォルムや、甲板に備え付けられた砲塔や機銃などから、どうやら軍艦のたぐいである事が分かった。いくつか、建設時に使用された錆びた櫓もある。
そのうちのひとつに、注意深く足をかけてみる。ギギギ、と不吉な音がしたが、何とか登れそうだ。
鳶職の経験もあり、身軽さには自信がある。俺はあっという間に櫓を登りきり、軍艦の甲板に立った。
やはり錆に覆われた甲板を、船尾に向かって歩く。
「………しかし、何でこんなモンが、吉本の地下に……?」
吉本が戦時中に、日本軍に色々と協力していたというのはどこかで聞いた事がある。
いや、だからといって、戦艦まで独自に造る企業があるワケが………?
「……はは、いくら何でもそんな事、あるワケないわな!」
ハハハ、と俺は豪快に笑ったつもりだったが、途中で笑い声がトーンダウンしてしまう。
(「シャレで」、とか言うて、やりかねんがな……吉本やったら……!)
誰もいない巨大な地下空洞にひとり。俺の気持ちはどう転んでも暗い方にしか傾かない………。
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