しなやかな腕の祈り
マドリード

住所の家

裕子さんにもらった紙きれに書いてあった住所までは
半日以上かかってしまった。あたしはバイラオーラだけど
スペインの人たちが使う言葉など読めないし、書けないし、話せない。
ボディーランゲージで何とかあたしの言いたい事を分かってもらう他に
会話の手段が1つもないのだから必死だ。



「もうァカン…疲れた…
明日…明日にしよう…」



母の家だという住所に向かうのは翌日にすることにした。
泊まる安宿は案外すぐに見つかった。
時差に負けているのも確かにあって、体が本調子じゃない。



泊まる部屋は狭く、小さな窓が1つあるだけの部屋だった。


「疲れたぁぁ!!!」



叫びながらベッドに寝転がると、睡魔が強烈にあたしを襲った。
本当に実りの多い1日だったと思った。



「寝よ。明日早ぃし」




今日あった事を1つ1つ思い出したい気もあったが、それどころじゃなかった。

小さな窓が1つだけしかない小さな狭い部屋で、あたしは秒速で眠りに落ちた。
目が覚めたら、母に会える。
聞いた事のない母の声が、耳元で聞こえた気がした。
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