しなやかな腕の祈り
朝方、目が覚めた。一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。


「そうや…マドリードまで来たんやんな」



そう独り言を言うと、急に体が元気を取り戻した。
顔を洗って、歯を磨いて化粧して。髪型も好きな男に会うかのごとく
きっちりセットした。



宿泊料金を払って、外に出ると気持ちよく晴れた空があった。



「絶対うまくいく」


また独り言を言ってみた。
この言葉は、あたしの御守りだ。大きな舞台で踊る日に、どんなに緊張していても
この独り言を言ってみたら、不思議としっかり踊れるんだ。



タクシーとバスを乗り継いで住所の場所まで向かう。
色んなものが、あたしの目に鮮やかな映像として飛び込んできた。
スラム街のような所も通った。貧富の差、とまでは行かなくても
豊かか、そうじゃないかははっきりと分かった。



「日本ってホンマ豊かやな…」



そんな事を思った。

あたしは秀一叔父さん夫婦と、母方の祖母に育てられた。
母はいなかったけれど、何不自由なく育ててもらった。
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