しなやかな腕の祈り
だけど、あたしも母の子供だ。父はどうだったのか知らないけど
あたしもめちゃくちゃに非行に走ったクチだったのだ。
荒れて荒れて皆を苦しめた。


『本当にこれでいいのか』



そう自分に問う時は、部屋に飾ってある母とのたった一枚の写真を見て
自分は間違っていないと言い聞かせてきた。
その頃のあたしは、母は自分を捨てた…そう思っていた。
だから余計に悔しくて悲しくて腹立たしくて
荒れて荒れて荒れまくった。



だけど、母があたしを捨てたんじゃないと知ったのは、意外な事に
秀一叔父さんの銀行通帳を盗み見たことからだった。

『オオヤ チアキ』

そう印字された名前の横には

『1000,0000』

という数字があった。


母からの、あたしへの毎月の仕送り…養育費だった。

それから秀一叔父さんは、母について話した。
母はスペインにいて、フラメンコをしている事。
あたしに見せていなかっただけで、毎月手紙が届いていること…
幼稚園の頃から嫌々続けてきたフラメンコが、母とあたしを繋ぐ大切な線だということ。



でも、すぐには母への恨みつらみを捨てられるわけがなくて。
そんな莫大な金額の金を送ってくれて当たり前だ、とか思っていた。





今まで寂しい思いをしてきたんだから、それで普通だって。
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