しなやかな腕の祈り
お父さんとは、お母さんが結婚して辞める仕事場の前に働いていた仕事場で知り合い、1ヶ月で恋仲になった。目が大きくて、背が高くて…そんなお父さんにお母さんが惚れ込むまで、そう時間は掛からなかった。



だけど、お父さんはお母さんの他に何人も女がいるほど女癖の悪い人だった。お母さんはお母さんで、惚れたら地獄…駄目だと思いながらもお父さんにしがみついていた。



そんなお父さんの名前は


笠谷 龍真。




やんちゃばかりで、暴走族の頭までするほどだったお母さんは、お父さんとは打って変わって硬派な女だった。周りにいた男を切り捨て、お父さんを愛した。




お母さんがあたしを身ごもったと気づいたのは、二十歳の4月だった。お父さんとは相変わらず中途半端な関係が続いていて、さすがのお母さんも惚れた以上にお父さんの悪態と嘘に疲れ、別れを決意していた矢先の事だった。



お母さんの心は、固まっていた。



『例え家族と離れても、龍真と離れても、あたしはこの子を生んで育てる』



だけどお父さんは違った。『堕ろせ』の一点張りで、お母さんの事も、あたしの事も受け入れなかった。
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