しなやかな腕の祈り
会わせて貰えるんじゃないか…
そんな事を、ふと思った。




「あたし…あたしは…
大屋千秋の娘です。」






女性は目を丸くして
あたしを見つめている。






「母は…
母はどこにいますか。
教えてください…お願いします」





消え入りそうな声で懇願した。
期待なんかしていない。
母はもうスペインにいない…
その可能性だってある事は
あたしだって分かってる。








だけど、お母さんに会いたい。
あたしの幼稚園の入園式を済ませ
突然姿を消してしまったお母さん。
聞きたい事も、話したい事も
本当に山ほどあるんだ。








祈るような気持ちで懇願して
どれだけの時間が過ぎたのか。
女性はやっと口を開いた。





「お母さんは…千秋は
マドリードにいるの。
あたしも会ってないわ…
忙しくてね。千秋。
プロダンサーだから仕方ないけど。」






さっきまで『千秋さん』と
呼んでいたのに、急に
女性は急に母の名を呼び捨てにした。






「友達なんですか」
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