しなやかな腕の祈り
意地だった。負けたくなくて、折れたくなくて、精神的にズタズタにされながら…お母さんは耐えた。



だけど、残酷な現実は決して矛先を変えずお母さんだけを苦しめた。



あたしが生まれた時、お父さんは側にいなかった。陣痛の痛みの中で幾らお父さんの名前を呼んでも、いなかった。



我慢の限界だった。お母さんは酷い産後の鬱に悩まされた。祖母も、叔父さんも怒りに震えながらお父さんの来院を待った。2日経って携帯が繋がり病院へ来たらしいが、誰もあたしに会わせる事はしなかったらしい。



「俺の子供に会って何が悪い」



と、お母さんの病室の前で喚き散らす父を力づくで止める秀一叔父さんは、悔し涙を流していたという。その時真実を知っていたのは秀一叔父さんだけだった。


違う香水の匂い、長い髪の毛が肩に付いていたのも…お父さんの首筋に、キスマークがあったのも…見たのは、秀一叔父さんだけだったらしい。



四日後、離婚届に判を押してお母さんはお父さんに会いに行った。だけど、揉めるだけ揉めてお父さんは離婚を受け入れなかった。



「断固、離婚は拒否する」


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