しなやかな腕の祈り
鬱の症状は酷くなる一方だった。自分の生きている意味を問うた。



『死んでしまいたい』



そう思っては、泣いた。自分の欲が満たされない時だけ体を求めてくるお父さんに、お母さんは人形のように抱かれ続けた。



そして、最悪の結末があった。



違う女性と、当時のあたしくらいの小さな男の子を連れて楽しそうに買い物をする自分の夫の姿を、お母さんは見てしまった。自分には施された事のないような待遇を、その女性は受けていた。




その男の子も、お父さんに似ていた。





雨の中、お母さんは二歳半になったあたしを連れて家を飛び出した。どうしようもない恨み、憎しみが襲ってきて、お母さんはとうとう発狂した…



祖母や秀一叔父さんのいる実家に帰ってきてすぐ、離婚は成立した。それと同時に、お母さんは鉄筋工の仕事に就いた。あたしが保育園に預けられたのも、その頃だ。


毎日、男に混じって、男になって働いた。


全ては、あたしのため。仕事なんか選ばずに、何の迷いもなく鉄筋工の仕事に就いたらしい。
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