しなやかな腕の祈り
それからは平和な日々が一時は訪れた。


「疲れ果てて家に帰れば、笑顔で多嘉穂が待っててくれたから頑張れた」



お母さんはそう言った。あたしは覚えていないけど、2人で旅行へも行ったらしい。そんな時間が、お母さんの心に刻み込まれた裏切りの傷を癒やしていった。



…でも、その時間は長く続かなかった。




お父さんは、あたしを取り返しにきた。




お母さんは最後の力を振り絞って戦った。



『多嘉穂は渡さない』と。



そして、戦いの幕が閉じたのはあたしが三歳と三ヶ月になった日のこと。



「多嘉穂を引き取るのは止める。その代わり…



千秋、お前も多嘉穂の前から消えろ」



その条件を飲まないなら、力づくであたしを連れていくと言われた。



そして…お母さんはあたしの前から居なくなった。全ての写真と思い出を持って。
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