しなやかな腕の祈り
帰国
昨日の晩は、お母さんと一緒に寝た。
もう後何時間かしか残されていない時間を
出来る限り共有したかったから。




でも、朝はすぐに来る訳で。





「今日、練習休んだからさ…空港まで送ってってあげるわ」




お母さんが寂しそうに言うから。あたしは"うん"と答えた。


化粧を終わらせ、髪の毛を整え、とうとう家を出る時間が来てしまった。




車を走らせている途中、流れていく景色を見つめながら、お母さんと昨日話した事を色々思い出していた。



お母さんは運転しながら一人で喋っていたけど。



帰る間際に悔しくなった。



お母さんが苦しんだ時、お母さんを助けたのがあたしじゃなくて…





この国だったこと






フラメンコって民族舞踏だったこと






娘のあたしは何にも知らなくて、"捨てられた"とか勝手な被害妄想を抱いてグレていたこと







空港まであっという間だった。




「ここでいい…」




小さな声で、お母さんに訴えた。



「え??だって駐車場やし」

「離れるの寂しくなるから、ここでいい」



あたしがそう言うと、お母さんは複雑そうな顔をしてあたしを見た。
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