満月の夜に魔女はワラう 第一部 新月の微笑
「川乃瀬さん、ども」

誠が振り向いた先には七分丈のデニムにTシャツ、というラフないでたちの黒髪の綺麗な女性がいた。

「ねぇ、黒岡君。それヤメテよ。」

川乃瀬 千草(かわのせ ちぐさ)はチョコんと誠の横に腰かける。

「ヤメロッて、ここ喫煙所スよ。この大学も厳しくなって他の場所じゃ煙草吸えないんスから、勘弁してくださいよ。」

誠は視線を一度、イトーに戻した。

イトーは相変わらず講義棟の前を通る女子大生を観察している。

「そっちじゃなくて。」

「私の名前。」

千草はズイと誠に近寄る。

…名前?間違えてはないはずだけどな…。

「千草でいいって言ってるのにいつまでも名字で呼ぶし…。」

それに、と千草は続けた。

「なんで『さん』付けなのよ。呼び捨てでいいって…」

なんだ、それか…。

誠は相変わらず煙草をくわえている。

「なんだかんだ言ったってオレらの一コ上なんスから。年上のモンに『さん』付けしたって問題ないでしょう。」

スパーっと誠は煙草の煙を吐き出した。

「学年は一緒じゃん…。」

「それとこれは別問題ですよ。」

「で、どうしたんスか?」

誠は目だけを千草に向けた。

「あ、んとね。」

千草はピラッと一枚のプリントを誠に差し出した。
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