満月の夜に魔女はワラう 第一部 新月の微笑

｢サボりすぎると先生たすけてくれないかもよ？｣

千草はフフッっと笑い、またね。と、付け加えて小走りで教室へと向かって行った。

誠は無意識にその後ろ姿を目で追っている。チャッチャッチャッチャッとアスファルトの上を走る足音は一定のリズムで刻まれどこか小気味いい。

｢マ～コ～。いいね～、あんな綺麗なお姉さまとお知りあいなんて…。千草さんだっけ？｣

不意にかけられた声に誠はスゥっと視線を動かす。

誠の目の前、地面から生えるように取りつけられた灰皿を挟んだ先のベンチにイトーは座っていた。

ニマニマとした顔に誠は、顔面に一発いれたくなる衝動にかられる。

実際に殴ると手が痛いので、まずないが…。

｢お姉さまってたかだか一歳年上なだけだろ。｣

それにあんまり大人びているって感じがしないんだよな、アノ人…。

｢結構いい感じじゃない。｣

イトーの顔は相変わらずニマニマとしていて、誠はスッと目線をイトーから外しながら｢あぁ？｣と疑問府を投げた。

｢っと、ワリぃワリぃ。お前には先約のお姉さまがいたんだっけな。｣

イトーはカラカラと笑って顔の前で手を合わせた。

…………。

イトーの顔色が徐々に赤味を失っていく。