満月の夜に魔女はワラう 第一部 新月の微笑
「さて、帰ろっか?」

綾香は地上に降りると誠に向かって言う。

誠はふう、と息を吐き。

「だね。」

と、歩き出した。

「と、思ったけど…。」

綾香の声のトーンが落ち、抑揚が無くなる。

「は?」

半ば呆れ顔で振り返る誠をヨソに綾香は真剣な面持ちである。

その顔にうっすらと黒い笑みを浮かべてはいたが。

「なに?」

状況が解らない誠の眉間に皺がよる。

辺りに流れるのは生温い空気と居心地の悪い沈黙だけである。

「誠、下がってなさい。」

綾香は後方、何もない空間に向き直りながら、誠に言った。

「ちょっと危ないからね。」

ハタハタと無風の空間で綾香のマントがゆっくりと、徐々に激しくはためき始めた。

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