36.8℃の微熱。
こういう人を好きになれたらきっと幸せなんだろうな、なんて。
あたしも急いで笑顔を作って“分かったよ”と頷きながら、そんなことをふと考える。
けれど、それと同時に胸の奥がチクッと痛んだりもする。
王子は先生のことを悪者みたいに言っていたけど、根っからの悪者だったらあたしは塾に入っていなかったと思う。
ひどい交換条件を突き付けられたり、毎回居残りさせられたり。
嫌だなって思うことはあっても、本気で塾をやめようと思ったことなんてなかった。
たまに優しいし、ちょっと子どもっぽいところもあるし、ラーメンをごちそうしてもらったことも。
だから、庇う・・・・じゃないけど、先生が傷ついていないか心配で、申し訳なく思う。
そういう面を王子が知らないのは当然のことなんだけど。
今日は塾サボっちゃったけど。
「フゥッ・・・・!」
肩で一つ大きく息をすると、あたしは玄関の扉を勢いよく開けた。
ごちゃごちゃ考えるのはあとだ。
「お母さん、ただいまー。頼まれた牛乳、買ってきたよー」