36.8℃の微熱。
“ユカ”という知った名前に慌てて振り返ると、目に入ったその人は右足にギブスをはめて松葉杖をついていた。
顔にはつい最近できたような擦り傷があって、痛々しくばんそうこうも貼っている。
「あ、あの・・・・」
いきなり呼び止めてきたのがケガ人だったとは少しも思わなくて、まず先に何を言ったらいいのか分からないあたし。
おどおどするだけで、言葉なんて一つも出てこなかった。
そんなあたしを見て、その男の人はコツコツと杖をついてこちらに少しずつ近づいてくる。
そして目の前で止まると、まるで近くにいるかのように「おーい、ユカー!」と声を上げた。
・・・・ユカ?
え? だってユカ様はあたしに代わりを頼んだんだよ? こにいないんじゃないの?
───けれど。
「えへ、えへへ〜。ごめんね〜茜ちゃん。ユカ、ここにいまーす。やっぱ来ちゃった・・・・よね?」
「・・・・はぁっ!?!?」
物陰からおずおずと手を挙げて現われたのは紛れもなくユカ様で。
あたしは、静かな駅前にキンキンに響く声を上げてしまった。