36.8℃の微熱。
「いいわよ、塾。入りなさい」
「ありがと」
10分後。
上機嫌で戻ってきたお母さんに、とりあえずお礼を言っておく。
携帯のことがバレたら鬼に変身しちゃうから、にっこりスマイルも忘れずに。
「それにしても、入学式の日にさっそく塾に入りたいだなんて、茜もしっかりしてきたわね」
「そう?」
「そうよ。受験のときなんかまるでやる気がなかったのに。ふふ、嬉しいわぁ〜」
「うん。が、頑張るよ」
こんなに嬉しそうなお母さん、久しぶりだなぁ。
合格発表のときは、喜ぶ前にほっとして泣いていたみたいだから。
・・・・お兄ちゃんに聞かされた。
「塾に入って成績上がらなかったらオカン悲しむからな。そこんとこはうまくやれよ」
申込書でご飯が食べられそうなくらいニッコニコのお母さんに聞こえないよう、お兄ちゃんがこっそり耳打ちする。
あたしは、騙して申し訳ない気持ちを飲み込んでうんと頷いた。
・・・・その3まで考えたけど、あとの台詞は必要なかったみたい。