36.8℃の微熱。
「じゃあ、そういうことだから」
そのあと、王子は何も言葉が出ないあたしに背中を向けて図書館を出ていこうとした。
何か言わなきゃ、伝えられる言葉があるはずなんだ・・・・そう思うけれど、あたしの口は焦るほど固く閉じてしまって。
静かな図書館に王子の足音だけが響き、やがて───ガラガラ。
扉が開かれた。
「あ」
すると、何かを思い出したように小さく声を上げた王子。
扉に手をかけたまま、少しだけあたしを振り向くとこう言った。
「あの梅味の飴、ホントに酸っぱいね。ベタなこと言うようだけど“青春の味”って感じ」
ヘヘッ。
そう自嘲的に笑って。
「昨日、宇佐美さんに言われた通りだった。自分の目で確かめないと真実は見えない・・・・長いこと待ってたんじゃない? 風邪、悪くならないように気をつけて」
ガラガラ、ピシャン。
不思議な言葉を残して、今度こそ王子は図書館を出ていった。
結局、あたしは最後まで何も言えなくて、泣くもんかと固く決めていたはずの涙がポロリ。
こぼれ落ちた。