36.8℃の微熱。
 
「ところでさぁ茜ちゃん、さっき店に入ってきたとき、どうして柊の機嫌が悪くなったと思う?」


すると、お釣りを手渡しながら細田さんが急に話題を変えてきた。

え? それは、自分には“いらっしゃい”って言ってもらえなかったからでしょ? 違う?

それを言うと、細田さんは違うんだなぁ〜と顔のお肉をたっぷり揺らしながら首を振る。


「・・・・あれはねぇ、柊の照れ隠しなんだよ。昔っからそうなんだ」

「あんなドS発言が!?」

「そう」


“そう”って細田さん・・・・。

そんなにニッコリ笑って言われても、あたし理解し兼ねますけど。

「ブタ!」って言ったり「とっとともてなせ!」って言ったり、鼻で笑ったりもしたんだよ?

照れ隠しの範囲外じゃない?

けれど細田さんは違うらしい。


「前にさ、茜ちゃんは柊のお気に入りだから諦めなって言ったの覚えてる? ドベ子って紹介されて超怒ってたときの」


そう言って、線のように細い目を精一杯見開いて、あたしの顔をまじまじと眺めてきた。

細田さんの目、意外とつぶらね。
 

< 437 / 555 >

この作品をシェア

pagetop