36.8℃の微熱。
 
「私もよく分からないんだけど、片桐先生の周りでチョロチョロ動き回るネズミがいるらしいの」

「・・・・へ、へぇ〜」

「でね、片桐先生もそのネズミをかわいがってるみたいでね。エサをあげたり、猫から助けてあげたり、ほかのネズミにはしないようなこともしてあげてるの」

「ビップ待遇じゃないですか」

「そうね。ズルいわ」

「・・・・」


ああ、このネズミはあたしだ。

先生を好きだと気づいてから、いつかこんな日が来るんじゃないかと心の隅っこで思ってきた。

それでも気持ちは止まらなくて、止められなくて、あたし・・・・音を立ててはいけない階段を踏み鳴らして上ってしまったんだ。

きっとその音は大きい、そこに住む人たちに気づかれるくらいに。


「片桐先生、けっこう秘密主義なトコがあるでしょう? だから大家さんに隠してて。でも、ある日とうとう見つかってしまった」

「・・・・」

「大家さんは言ったわ。君が部屋を出ていくか、もうネズミとは関わらないか、選べるのは1つだ」


ほら、やっぱりそう。

あたしのせいだ。
 

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