36.8℃の微熱。
「住民の1人として、私思うの。近所の目もあるし、ネズミにも片桐先生の立場を教えてあげないとダメなんじゃないかって」
「・・・・立場?」
「分からない? 片桐先生のことを思うなら・・・・ね? ネズミは人間に恋をするべきじゃないわ、叶いっこないもの」
彼女が言うネズミとは、あたしを含むこの塾の生徒たちのことだ。
大家さんは校長で、住民は塾の講師たち、近所の目はあたしたち生徒の親や世間体だ、きっと。
そして勘のいい住民・・・・彼女は、たくさんのネズミの中から1匹を見つけ出し、警告をしている。
先生のことを思うなら身を引きなさい、さもなくば先生は住むところを失ってしまうのよ、と。
「・・・・そ、そうですよね。そのネズミもバカですよ、ほかとはちょっと違う扱いをされただけで調子に乗っちゃって。所詮、ネズミはネズミでしかないのに」
「あら、あなたもそう思う?」
「はい」
頷くと、彼女は満足そうにふっと息をこぼし「いい子ね」と言ってあたしの頭を数回撫でる。
その手は異様に冷たくて、あたしは彼女を魔女だと思った。