少女A。
「岡田は夏大とかないの? 演劇部は大会なんか出ないけど」
そう尋ねると、岡田は神谷の絵の具を弄り始めた。
細い指先がどんどん緑に色付いていく。
あたしは筆を持って、あやふやに切られた木のシルエットを塗りたくった。
「あるよ。去年は県大会のベスト4だったし。今年もそこらへんまで行けんじゃないかな」
岡田は緑色のついた指で、未完成の木をなぞる。
それだけでも随分と鮮やかになった。
「サボってても何も言われないの?」
「そりゃ言われるよ。でも顧問は練習で精一杯だしさ。気にしてないんじゃないかな。三年だしどうせサブだし」
“俺の部では一番どうでもいい奴が副キャプテンになるんだ”と悲しそうに目を伏せた。
「大会には出るんでしょ?」
「出られるはずないじゃん、ほとんどサボってんのにさ。補欠だよ、三年で俺だけね」
水を加えずに塗った色は、油絵のようで、渇ききったみたいに可哀相だった。