少女A。
「か、神谷が喋った! おい、今神谷喋った!」
「聞いてたって……。イチョウなら形をしっかりしてよね」
何様だ、あたし。
「もっと驚けよぉ」
「これでもびっくりしてるけど」
神谷が言葉を発したことに、目を丸くした岡田。
あたしだって随分驚いてる。
でもそれを顔に出すのも口を出すのも、失礼だと思ったんだ。
「あ、俺そろそろ帰る。じゃあな、神谷もまたな!」
時計をチラッと見て、笑顔で岡田は去っていった。
岡田は、いつもまたなと言う。
また次会うことをわかってるんだ。
いつかその“また”が叶わなくなってしまうくせに。
その“いつか”は知らない。
でも、“いつか”は必ず来る。
「さよなら」
だから、あたしはいつも遅めに言うのだった。
さようなら、と。
今考えてみたらどんなに切ない言葉なんだろう。