少女A。
『風よりも速く
炎よりも燃えろ
勇気を振り絞り
悪に打ち勝つんだ!』
「どうしたの、これ」
テレビから流れる、無駄に元気の良い歌。
ウルトラマンか何かかな。
それとも戦隊ものかライダーか。
「昨日、一昨日くらいからやり始めたのよ。次々変わってくわねー」
「ふーん」
そう言いながら、冷凍庫からポッキンアイスを出した。
中央を割るといい音がする。
すぐに赤くなる手を痺らせながら、ソファーに座った。
「そういえば昔言ってたわねー。ヒーローになりたいんだかなんだか。本当、憧れやすい子」
「そんなんじゃないよ……」
アイスを勢いよくかじると、冷たいソーダ味が口に広がった。
ただそれだけのことなのに、さっきの悔しさやら何やらが吹き飛んだ気がした。
「あ、そうだ」
「ん?」
お母さんは蛇口を捻り皿洗いを中断する。
「――お母さん、家出てくことになったから」
ソーダ味は、夏の幕開けとともに、またあたしの何かを吹き飛ばした。