少女A。
先生は女子から人気がある。
ほとんどが名前で呼んでいるだろう。
「じゃあ吉原さんはあそこに座ってて下さい」
先生が吉原という単語を口に出す。
先生が向けた視線は、あたしが向けた視線とバッチリ重なった。
誰だろう、吉原って。
転校生かな。
あ、先生。
あたしは吉原じゃないよ。
梶浦だよ。
おとぼけ過ぎる先生は、きっとそんなこと気付いてないだろう。
「はい」
あたしは静かに木陰に腰を下ろした。
反論なんて面倒くさい。
皆はいくよーとか可愛らしい掛け声をしてボールを蹴り始める。
本当は、なんでこんなクソ暑いなかサッカーなんてしなきゃなんねーんだよ、とか怒鳴りたいだろうに。
でも結局は参加するその真面目な姿勢に、馬鹿らしくて思わず吹き出しそうだった。