蝉時雨を追いかけて
「いや、意味がないだろ。おかっぱもようやく人間並みのフォームと人間並みの体力になってきたからな」


「もう拓海ったら、もっと褒めなさいよ。それなら、あと一週間どうしたいの?」


 あと一週間でできることなど、たかがしれている。

いまさら慌てて新しい試みをしてもうまくいくとは思えない。

大切なのは現状の分析と試合への対策。そこに重点を置くべきだ。


「おそらくダブルスの代表は拓馬たちは無条件で決まりで、もう一組はおれたちか田端荻窪コンビになるだろう」


 おそらく、このままいけば田端荻窪コンビで確定だ。

だが、そう簡単にあきらめるわけにはいかない。あいつらに勝てるとしたら、おれたちだけだ。

直前にちょっと練習したくらいじゃどうにもならないほど、田端と荻窪は強い。


「そうね。つまり、田端荻窪に照準を絞ろうってことかしら」


「ああ。彼(か)を知りて己を知れば、百戦して殆(あや)うからずってやつだ」


「アラ、拓海にしてはずいぶん難しい言葉を知ってるじゃない。それなら、オレの専門分野ね」


「ああ、そうだな。おれもおかっぱがいるから、それほど心配していないよ」


「イケる気がしてきたわね。ところで拓海、マネージャーと話はしたの?」
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