蝉時雨を追いかけて


***


「ここに座って話をしてるだけでいいんですか?」


 おれの隣で、北村麗華が訊ねてきた。


「ああ、そうらしい」


 あれから、北村麗華にはすべてを話した。裏サイトのこと、犯人がおそらくゲジであること。

北村麗華は最初戸惑っていたが、トラップを仕掛けることには参加してくれた。

そして部活終了後、公園の緑色のベンチに、北村麗華とふたりで座っていた。

彼女が拓馬とキスをした場所だ。


 おかっぱの作戦は、実に単純だった。

キスをしたのと同じ場所に座っていれば、きっとゲジが写真を撮りに現れるというものだ。

他に画期的なアイディアも思いつかなかったので、不本意だがおかっぱの作戦にのることにした。


 北村麗華は落ち着かないのか、差した傘をくるくる回していた。

つい先ほどから、雨が降り始めていた。

梅雨は終わったばかりだが、まだその名残を惜しんでいるかのような、体にまとわりつく雨。

おれたちはそれぞれ傘を差していた。
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