蝉時雨を追いかけて
 周りの木々が雨に濡れ、その水滴がおれたちの上に舞い降ちる。

それをすこし受け止めてから、北村麗華は傘を閉じた。


「ふたりで差してたら、カップルには見えないですよね」


 北村麗華は、おれの体に身を寄せ、傘の下に入ってくる。


「ああ、そうだな」


心臓は爆発寸前だったが、彼女が濡れないようにそっと傘を移動させた。

小さいビニール傘では、ふたりが完全に入ることはできない。

自然と、体もぴったり付く。北村麗華が呼吸をするたび、その振動が体から伝わる。


「でも、まだ信じられないです。お父さんがあんな書き込みをしたなんて」


「おれもだよ」


 おかっぱは、親だから犯人はゲジに間違いないと言っていた。

だが、それがどうも解せない。親だからこそ、あんな書き込みはしないのではないだろうか。
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