蝉時雨を追いかけて
 そんな会話をぽつりぽつりとしながら、北村麗華の鼓動を感じていたが、30分待っても、1時間待っても、ゲジはやってこなかった。

今日はもうこないのではないだろうかと思い始めたとき、おかっぱからメールがきた。


「おかっぱからだ」


 北村麗華にも聞こえるように、口に出して言った。

取り出した携帯電話を、彼女がさらに顔を近づけてのぞきこんできた。

まっすぐ前を見ていても彼女の横顔が瞳に映り込むほど、すぐ近くに好きな人がいる。


『ただ座ってるだけじゃダメみたいね。これはもうチューしちゃうしかないわよ』


 すぐ横を見れば、彼女のくちびるがあった。

小さく開いた、つやめくくちびる。おれは思わずつばを飲み込んだ。
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