蝉時雨を追いかけて
「たしかにそうですよね。あのときはキスした瞬間に撮られた」


「だ、だがもし撮ろうとしているなら、もうすでに公園の中にいるんじゃないか?」


「でもそれじゃ、証拠にはならないですよね。拓海さんは嫌かもしれないですけど、やるしかないですよ」


「嫌というわけじゃ……」


 言い切る前に、彼女の整った顔が、すぐ目の前に現れた。まぶたは閉じられている。

ゆっくり、ゆっくり。

おれは、目を閉じた。そして、頭が重なった。

その瞬間、正面の木の奥が光った。おれは勢いよく立ち上がった。


「おかっぱ!」


「ゲジ、そこまでよ!」


 おかっぱがどこからか突然公園の中に現れて、光った場所に懐中電灯を向けた。

照らし出されたのは、やはりゲジだった。
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