蝉時雨を追いかけて
「なんだっ、おまえたちっ!」


「やっぱりゲジが犯人だったのね。もう逃げられないわよ」


 北村麗華がゲジのほうへ歩き出した。おれもそのうしろに従った。

彼女は、ゲジから少し離れたところで立ち止まった。

おれは濡れないように、そっと傘を北村麗華に寄せた。


「ねえ、お父さん。どうして写真なんか撮ったの?」


「それはっ、そのっ、個人的なコレクションだっ!」


 ゲジは動揺を隠せず、ポケットから取り出した毛抜きで、何本も何本もまゆ毛を抜いた。

北村麗華は動じず、ただゲジの顔を見据えている。


「なんでうそをつくの? 私見たよ、お父さんの裏サイトへの書き込み」


 ゲジのまゆ毛を抜く動きが止まった。

反対側のポケットから手鏡を取り出し、自分の顔を見つめている。


「……しかたなかったんだっ! 麗華を守るためにはっ!」
< 121 / 155 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop