蝉時雨を追いかけて
「私を、守るため?」


「そうだっ! 麗華を拓馬やそれ以外の男から守るためにはっ、こうするしかなかったんだっ! あの書き込みをすればっ、誰も近付かなくなると思ったんだっ!」


 守るという言葉に、おれは動揺した。ゲジは、おれとは違った方法で守ろうとしていたんだ。

しかも、具体的にはなにも動けてないおれと違って、しっかり行動に移している。

おれには、ゲジを責めることなんてできない。

方法はどうあれ、ゲジの行動基準は、きっとおれと同じだったんだ。


「お父さん、そんなこと言わないでよ。拓馬くんは大切な人なの。他の人からは拓馬くんが守ってくれる」


「じゃあ今のはなんだっ! 拓海とキスをしてたじゃないかっ!」


反論しようとする北村麗華を、左手で制した。なるべくやさしい言葉で真実を伝えたかった。


「キスなんか、してませんよ」
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