蝉時雨を追いかけて
「ど、どうしちまったんだよ、荻窪。俺っちたちが上手いってブサイク先輩も言ってんじゃん。つーか、おまえがちゃんとしゃべったの初めてじゃん」


「…………上手いから勝てるわけじゃない。それを先輩たちが実証したじゃないか」


「わけわかんねぇよ。わかるように言えよ、荻窪」


「いや、おれが教えよう」


 おれは答えようとしていた荻窪を制した。


「彼(か)を知りて己を知れば、百戦して殆(あや)うからずって言葉、知ってるか?」


「しらねえよ。現代語でしゃべれよ」


「味方のことと敵のことを両方知っていれば、百戦しても危なげなく百回勝利できるって意味だ。孫子の兵法だよ」


「意味わかんねえ。だいたい、そんしのへいほうってなんだよ」


「そんなことも知らないのか。孫子の兵法は、昔中国で書かれた兵法書だ。有名だろう」


 おれはさらに続ける。


「おまえらは自分たちのことは理解していたのかもしれないが、おれたちのことを知ろうともしなかっただろう。それがおまえらの敗因だ」


「先輩たちは俺っちたちのことを知ろうとしたってのかよ」


「ああ、ほとんどおかっぱのおかげだがな」
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