蝉時雨を追いかけて
 おかっぱはまだ踏ん反り返っている。

ふとお腹を見ると、腹筋がぷるぷる震えていた。そろそろ限界なのだろう。


「おまえらの得意なショットやクセなど、全部おかっぱが見抜いてくれた」


 やはりおかっぱの観察力はすごかった。

一日観察しただけで、ふたり合わせて10個以上のクセを見抜いてしまったのだ。

あとは、おれがそれを記憶するだけだった。


 田端は静かに頭を掻いた。


「準備の差か。たしかにそれは不足してたのかもな。なあ、荻窪」


「…………………………うん」


「しかたねえな。でもこの負けで俺っちたちはもっと強くなれる。今回だけは勝ちを譲ってあげますよ、先輩。なあ、荻窪」


「…………………………うん」


 口は悪いが、自分たちの実力を認めることができる。こういうやつは強い。

こいつらは強くなるだろう。

次やったときには、おれたちがいくら頑張っても勝てないくらいの実力になっているかもしれない。

それこそ、拓馬に匹敵するくらいに。だが、今日のところは、おれたちの勝ちだ。

おれたちは、ダブルスで夏の大会に出場することが決まった。
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