蝉時雨を追いかけて


***


 夏休み直前。いよいよ夏の大会の日がやってきた。大会は一週間にわたって行われる。

おれはその試合会場にいた。会場は運動公園内にあるテニスコートだ。

コートが4つ並んでいて、おれは他の部員とともに、フェンスの外から別の試合を眺めていた。


 拓馬は結局、きていない。北村麗華でも説得できなかったのだろうか。それとも。


「拓海ちゃん」


 聞き覚えのある声。振り向くと、そこには胸元に深いカットの入ったシャツを着た、納豆大好き茨木ゆかりがいた。


「茨木さん! 観にきてくれたのか?」


「うん。拓海ちゃんじゃなくて、おかっぱちゃんを観にきたんだけどね」


 おかっぱを観にきたなんて、そんなばかな。おかっぱの言っていたことは本当だったのか。
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