蝉時雨を追いかけて


***


「おしかったなっ! もう少し頑張って欲しかったがなっ!」


 負けた直後、フェンスの外で見学していた部員のもとに戻ると、ゲジがまゆ毛をぶちぶち抜きながら慰めてくれた。

相当にくやしがっていることは明白だった。


 北村麗華の顔をのぞくと、うなずいて微笑みかけてくれた。

それだけで、おれは幸せな気持ちになれる。くやしいという気持ちが、すこし和らいだ。


 おかっぱは、鼻血を流しながら茨木さんとなにかしゃべっていた。

あいつはもしかしたら、まったくくやしいなんて思っていないのかもしれない。

茨木さんはちょっと顔がひきつっているから、おかっぱのキモさにいよいよ気付いたのだろう。


 拓馬には勝てなかった。

実力が100%発揮できたわけではなかったが、試合のときにどれだけ自分たちの実力が出せるのかということも、実力の内だ。

ちょっと努力したくらいじゃ、本当に努力していた人間に勝つことはできない。
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