蝉時雨を追いかけて
君を追いかけて
 夏休みに入ってから一週間が経ったこの日、おれはゲジに呼び出されていた。

今日はおかっぱとではなく、おれひとりでだ。

職員室に入ると、おれの存在に気付いたゲジが手鏡で自分の顔を見るのをやめ、おれを手招きした。


「拓海っ、よくきたなっ!」


「はい。話ってなんですか?」


「おまえっ、進路はどうするつもりなんだっ!」


「これから勉強して、大学に進学するつもりです」


 おれには、テニスの推薦で大学に入れるほどの実力はない。

おれの勉強レベルに見合った、普通の大学に入って、普通の生活をするつもりだ。

テニスはもしやるとしても、趣味程度にサークルへ入るくらいだろう。


「そうかっ! おまえは頭も良いし問題ないなっ!」


 おまえは。つまり、薄々気付いてはいたが、ゲジの目的はおれではなかったのだ。
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