蝉時雨を追いかけて
「拓馬のことですか?」


「そうだっ! 拓馬は進路がまだ何も決まっていないっ!」


 ゲジは拓馬の担任ではないが、顧問として拓馬のことを心配しているのだろう。

拓馬が学校へこなくなったときはまったく動かなかったゲジだが、きっとあのときは北村麗華に近付く拓馬を嫌っていたのだ。

ダブルスを組むとき、おれたちを応援すると言ったのも、拓馬への対抗心のようなものだったに違いない。


「テニスの推薦はないんですか?」


「ないっ! 春までは声をかけられていたが、今回の件で白紙になった」


 大学側からしてみれば、大会に出ない選手など必要ないということなのだろう。

これは大変なことになった。テニスで大学に入れないのであれば、拓馬の学力でどうにかなる場所があるのか謎だ。


「それどころかっ、このまま学校にこなければっ、卒業も出来なくなるかもしれないっ!」


「わかりました。拓馬と話をしてみます」


 これはおれの仕事だ。拓馬が学校にこなくなったのは、おれのせいなのだから。

< 136 / 155 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop