蝉時雨を追いかけて
「テニスはどうするんだ? このままやめるわけじゃないだろ?」


「さあ、どうだろうね」


 そのときふと、違和感の正体に気付いた。拓馬の部屋から、テニスが消えている。

ラケットも、本も、DVDも、テニスに関わるものすべて。


「拓馬、おまえテニス道具はどうしたんだ?」


「捨てたよ」


 あまりにもあっさりと返事がかえってきたので、それ以上なにも言えなくなってしまった。

そんなおれを見て、拓馬はそっと微笑んだ。


「拓海、麗華のこと、好きかい?」


「なんだよ、急に」


「いいから、答えておくれよ」
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