蝉時雨を追いかけて
 北村麗華の顔を思い浮かべた。おれの気持ちは変わらない。

拓馬はどんな答えを求めているのだろうか。

わからない。

拓馬の気持ちが、わからないんだ。

北村麗華は毎日拓馬の部屋にきているのに、まだ誤解が解けていないのだろうか。

急に、拓馬が遠い存在に感じた。いや、今までもずっと、遠い存在ではあった。

だけど、双子だからどこかで繋がっているはずだ、という思いが心のどこかにあったのかもしれない。

拓馬の気持ちがまったくわからなくて、動揺した。


 素直に思っていることを言おう、と思った。

うそをついてもしょうがない。うそをついたって、分かり合えるわけじゃない。


「好きだよ、北村麗華のことが」


 なるべく感情を込めないように言った。同情されそうで、怖かったんだ。
< 139 / 155 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop