蝉時雨を追いかけて
 

***


 夏休みは、ひたすら受験勉強だった。拓馬に教えながら、同時進行で自分の勉強もする。

北村麗華は、毎日やってきた。だが、拓馬は一度も部屋に入れなかった。

30分ほど玄関先で話をして、帰る。それが習慣になっているようだった。


 ずいぶんと、暑い夏だった。朝夕にはセミが競うように泣き喚く。

おれは、もっと拓馬と競いたいと思うようになった。

なにかをやめると、しばらくして突然、またやりたくなることがある。

それがおれにとってはテニスだった。大学に入ってからまた拓馬と戦うのもいいかもしれない。

そう思ったのだ。それなのに。


 それを知ったのは、夏休みが終わりに近付いた暑い日だった。





 拓馬が、死んだ。
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