蝉時雨を追いかけて
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夏休みは、ひたすら受験勉強だった。拓馬に教えながら、同時進行で自分の勉強もする。
北村麗華は、毎日やってきた。だが、拓馬は一度も部屋に入れなかった。
30分ほど玄関先で話をして、帰る。それが習慣になっているようだった。
ずいぶんと、暑い夏だった。朝夕にはセミが競うように泣き喚く。
おれは、もっと拓馬と競いたいと思うようになった。
なにかをやめると、しばらくして突然、またやりたくなることがある。
それがおれにとってはテニスだった。大学に入ってからまた拓馬と戦うのもいいかもしれない。
そう思ったのだ。それなのに。
それを知ったのは、夏休みが終わりに近付いた暑い日だった。
拓馬が、死んだ。