蝉時雨を追いかけて
 

***


 夏休みが終わり、すでに学校は始まっていたが、おれはまだ一度も行っていない。

拓馬の死から立ち直れずにいた。


 交通事故だった。猛スピードで飛ばしていた車の目の前に、拓馬が飛び出したらしい。

らしいというのは、本当のところがわからないからで、目撃者は誰もいなかった。

車の運転手によれば「あいつが赤信号なのに横断歩道を渡ってきて、避けられなかったんだ」ということだ。

夜、暗くなってからではあったが、それほど見通しの悪い道ではない。

わかっているのは、車が制限速度を大幅に超えて走っていたということくらいだ。

それは、現場の状況からわかったのだと警察の人に聞いた。

どちらに非があったのか、今となってはわからない。

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