蝉時雨を追いかけて
『麗華へ


 本当は直接伝えなければならないことだと思う。

でも、君を目の前にしたら、決心が揺らいでしまいそうだったから、手紙で伝えることにした。


 僕と、別れてほしい。


 テニスを失った僕は、やっぱり今までの僕とは違う。

なんの取り柄もない、麗華にはふさわしくない人間だ。

このまま麗華といることが、僕にとっては一番幸せなのだと思う。

それはわかっているけれど、たぶん麗華にとっては、一番幸せなことではないのだ。

目標をなくしたつまらない男のために、人生を棒に振ってほしくはない。


 これから僕は、どこか遠くの街で、新しい自分を探そうと思う。

見つかるかどうかはわからない。

でも、この場所で幸せに過ごしてしまったら、もっと見つからないと思うのだ。


 君を一生守るという約束、守れなくてごめん。

僕のせいで、麗華には大変な思いをさせてしまったね。

これからは僕のことを忘れて、自由に生きて欲しい。

困ったときには、きっと拓海が助けてくれるはずだ。

麗華には、どれだけ感謝してもしきれないよ。

麗華が幸せな日々を過ごせるよう、心から祈っている。



今までありがとう。幸せだった』
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