蝉時雨を追いかけて
 北村麗華は手紙を読んでから、じっと動かなかった。

拓馬との思い出をたどっているのかもしれない。


「悩んだんだ、この手紙を渡すか。もしかしたら、もっと北村さんを傷つけることになるかもしれないと思って」


 拓馬は、北村麗華と別れてまで新しい目標を探そうとしていた。

その勇気を、北村麗華にも知っていてほしかった。

おかっぱの言葉で気付いたんだ。

過去を引きずって生きるよりも、未来へ向かって明るく生きなければいけないんだってことを。


「北村さん、デートに行かないか?」


「デート、ですか?」


 自分の涙の理由がわからなかった。

いままでずっと、涙なんて出てこなかったのに、ふいに涙が零れて、止まらなくなった。


「おれはさ、まだ生きてるんだ。生きているから、幸せにならなきゃいけないんだ」
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