蝉時雨を追いかけて
「それじゃあ最後に北村さん、自己紹介をお願いします」


 彼女が、一歩前に進み出た。長い黒髪が、ふわり、風になびく。

新入部員の自己紹介が行われていた。テニスコート内に設置されたベンチの前で一列に並んでいる。


「北村麗華(キタムラ レイカ)です。よろしくお願いします」


 緊張しているのか、口早で、消え入りそうな小さな声だった。

言い終えると、北村麗華はすぐ、元の位置に戻った。頬がほんのり、桜色に染まっている。


「北村さんにはプレイヤーではなく、マネージャーとして頑張ってもらいます」


 部長の佐々木拓馬(ササキ タクマ)が補足説明をすると、男子部員から「ウォー」と唸り声が上がった。

無理もない。テニス部には胸をときめかせてくれるような女性が、ひとりもいなかったのだ。

女子がいなかったわけではないが、その、動物園で飼育され……いや、なんでもないです。

ともかく、ゴリラの群れに天使が舞い降りたのだ。

そのうえマネージャーとなれば、興奮しないはずもない。

きっとみんな、ありえない妄想をしているのだろう。

例えば……
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