蝉時雨を追いかけて
「つまり、真っ向勝負をしたら負けるけど、別の方向に努力をすれば勝負にはなるかもしれないってことよ」


 突然熱く語ったせいでおかっぱ頭が揺れて、ふけがパウダースノウのように降ってきた。

おれはそれを必死でよける。おかっぱはふけが落ちるのを気にする素振りも見せない。


「部長たちのダブルスは、ただうまい選手2人が一緒にテニスをしてるってだけなのよ。チームワークで勝負すれば勝ち目はあるわ」


「そんな簡単にはいかないだろ」


「もちろんよ。でも、オレたちなら、お互いの長所を生かせるわ」


「長所?」


「そう。あんた、いつもマジになっては走ってないけど、ホントはかなり体力あるわよね。つまり、あんたの長所は持久力よ」


 たしかに、おれは体力には自信がある。

拓馬にはもちろんかなわないが、勉強以外で太刀打ちできる可能性があるとすれば、体力だけだ。

でも、おれは勝負を避けてきた。負けるのが怖かったから。


「その持久力をどう生かすんだ?」


「オレは体力がないわ。だからオレのかわりに、あんたがひたすら後衛で走るの。そうすれば、オレの弱点がカバーできるわ」
< 28 / 155 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop