蝉時雨を追いかけて
「それを聞くかぎり、おかっぱの必要性が感じられないんだが」


「そんなことないわよ。前衛に専念できるなら、オレの観察力が生かせるわ」


 おかっぱが突然、目をギョロつかせた。

なんのアピールなのかしらないが、変質者以外の言葉が見当たらない。


「オレには相手が次にどこへ移動しようとしているのかがわかる。つまり、かならず相手の逆をつけるのよ」


「じゃあなんであんな弱いんだよ。おまえまだ、練習含めても一度も誰にも勝ったことないだろ」


「それはオレに体力がなくて、相手を見る余裕がないからよ」


 おかっぱはふんぞりかえっている。そのせいで、パウダースノウがおかっぱの背中側に流れた。


「なんで胸張ってんだよ」


「とにかく、お互いの長所が生かせる。それはたしかよ。それがダブルスでなら部長に勝てる可能性があると思う根拠」


「なるほどねえ」


「でもそれにしたって、今のままじゃ力で押し切られるわ。だから公園に呼んだのよ」


「意味がわからん」


 おかっぱは自転車のカゴに入っているカバンから紙を一枚取り出し、おれの前に広げた。
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