蝉時雨を追いかけて
「拓海、それから岡田」


 練習中のおれたちに話しかけてきたのは、拓馬だった。

ひとりだけ学校指定のものとは違う、ジジくさいむらさき色のジャージを着ている。

それなりに着こなせているように見えるのは、顔とスタイルの素晴らしさがあるからだろう。


「なんだよ、拓馬」


「僕たちと勝負をしないか?」


「勝負?」


「そう。そのために勝負パンツも履いてきた」


 と、拓馬がズボンの中をちょっとだけ見せてくれた。むらさき色をした毛糸のパンツだ。

どれだけ寒がりで、むらさき好きなんだろうか。


「ふたりで組んでいるのだろう? どれくらい上手くなったのか、一度確認した方がいいではないか」


「おれたちはまだこれからなんだよ。県ベスト8の選手に勝てるほど強くない」


 まだまったく練習もできていないんだ。ここで勝負しても、自信を失う結果になるだけに決まってる。
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