蝉時雨を追いかけて
 きっと男子部員たちは、そんな妄想をしているのだろう。

北村麗華から目を離して周りの部員たちを見渡すと、みんな恍惚の表情を浮かべていた。

ちなみに、女子部員たちはマウンテンゴリラのような表情を浮かべていた。


「今日からは新入生も本入部という扱いになるので、上級生と同じ練習をしてもらいます」


唯一冷静な男子部員である部長の拓馬が、一年生に声をかけた。

昨日までは仮入部期間だったので、新入生は上級生とは違う軽いメニューを行っていた。

そのため、自己紹介などしなくても、ほとんどの新入生は顔を見たことがあった。

仮入部期間にきていなかったのは、北村麗華ただひとりだ。


「これで部員も50人近くの大所帯になります。大変なところもありますが、今日も頑張ろう!」


 拓馬が今度は全員に向かって声を張り上げた。

「ウォー」と雄叫びを上げながら、いつもの3倍くらいのスピードで男たちがテニスコートを飛び出していく。

ランニングをするだけなのに、この気合いの入れよう。

別に真似をする気はないが、勢いだけは見習いたいな、と思った。
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