蝉時雨を追いかけて
「おかっぱ、少しは動け!」


「もう体力の限界みたいだわ」


 おかっぱは振り返ってウインクしてきた。まだおまえ、なにもしてないんだけど。


「このままじゃまずいわ。とにかく、くらいついていくしかないわね」


 おれは頷いたが、くらいついていこうにも実力差がありすぎた。

その後もおれたちはいいところがなく、ほとんどポイントを取ることもできなかった。

見せ場といえば、おかっぱがほとんどのサーブを鼻に当てられるという奇跡を起こしたことくらいだった。


「残念でした」


 拓馬は上着を脱いだ。むらさき色のはらまきがあらわになる。


「まだまだこれからだったみたいだね」


 なにも言えなかった。まだまだこれからなんてレベルじゃない。

このままじゃ、一生かかっても拓馬に勝つことはできない。

想像以上の差を見せつけられての完敗で、おれはまた自信をうしなってしまった。
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